イタリア買付道中記 2004
イタリア買付道中記 2004 その13
「ええぇっ?castellino:カステッリーノ(小さい城の意)に泊まるの?」
「って言っても人ん家だぞ、今は。シーズン中に間貸しするだけさ」
とあっさり。
店内で履いていたスリッパのまま、ペタペタ歩くアントニオの後をついて歩く事、たったの5分!
すでに大自然の様相を呈するその中に今夜の宿となるカステッリーノがありました。
滞在できるように簡単なキッチンやきちんとした冷蔵庫などもあり快適に過ごせそうでした。
自転車でまわれるほど小さな島、ファヴィニャーナは
・Tufo:トゥフォと呼ばれる“凝灰岩”の豊富な石切場で
・古代、この石で組んだと思われる遺跡がゴロゴロあり
・島の一端に現在建設中のリゾートホテルを除いてほぼ島の全体が保護地域となっています。
つまり自然そのものの形を色濃く残す島、結果として猥雑な範疇の物・モノ・者が入ってこないので
夜、ひとり歩いていても、星の空や頬をなでる海風をゆっくりと感じ取れるほど静かで落ち着いていて
安全な空気を感じ取れるトコロ。
車でクルリと廻ってくれた海岸沿いにはレンタル自転車とおぼしきものがポツリ、ポツリと点在しており、
眼下には気ままに海遊びを楽しむ人たちの姿がありました。
青い空、碧い海、照りつける太陽、心地よい海風。
華美なものは何一つ無いけれど、時計を外し心もカラダも開放しているかのような人たちの姿に、
シャッターを押すより自分もその中に入ってしまいたいという衝動に駆られ、ボーっとしっ放しだったのです。
「おい、コウジ、これがCapperi:カッペリ(ケッパー)だ!」
仕事に戻らなくては。
シチリア島のまわりにある小さな島々に自生しているケッパーはフウチョウボク科の低木です。
この花のつぼみを塩漬けにしたものがピアッティでご紹介している塩漬けケッパーです。
アントニオ曰く、
「このつぼみが小さいものの方が香りも良く、粒にしっかりした食感もあって良好だ!
取れる数が全体の2%程度だから希少性もあるがね。
いろいろと食べ比べた結果、このケッパーが一番だ!
塩?シチリアの海塩に決まってるじゃないか!
コウジ、ブランドに左右されるな!自分の舌で選べよ!」
スリッパをひっかけたヨレヨレのポロシャツ姿の、このオッサンはとても真面目に語ってくれました。
見かけによらず(失礼!)繊細なオッサンでした。
店に戻ると美しい女性が。
彼女は島の娘でElena:エレナ。
アントニオと一緒に店をきりもりする強力なパートナーです。
小さい頃から彼の店でいっしょにやってきたそうです。
carina:カリーナ(可愛い)というよりはbella:ベッラ(美人)なので訪れるお客さんも見とれている様子が面白かったです。
その夜、アントニオと友人、そして私の3人でディナーを楽しむ事になったのです。
途中、 何気に始めた “日本のお箸の使い方講座” が店のスタッフに受けてしまい、
何だかんだで忙しく、結局食事代がタダになったりしたのですが、
ついに何を食べたのか覚えていないままにディナーが終わりました。
その後、アントニオの家に寄りテラスにイスを並べ、飲むグラッパ。
話す内容は、彼の成功と影、人生とお金、男と女の友情。
国の違い、言葉の違いはあっても、そして私のイタリア語力が卓越でなくても
わかるもんはワカルんだなぁと妙に感心めいたり。
「人生ってのは複雑なもんだけど、簡単でもあるよなぁ。。。」とか。
ゆるりと流れる時間の中、ゆるりと酔いもまわり、人間アントニオが何となく好きになり、
もう少しここにいようかと思い立ち、忙しい買付の途中ではあるけれど
少し自分を開放してみようかと思い立ちました。
翌日、私は海の上にいました。
続く。