作り手達
Podere Cadassa / al Vedel
Culatello di Zibello:クラテッロ・ディ・ズィベッロは、その奥ゆかしい香りと複雑で変化に富む味わいは古来より人々を魅了してきた知る人ぞ知る逸品です。
その名産地とされる場所がパルマ県の北西部、ポー川沿いにある付近で、現在8つの村(Busseto:ブッセート、Polesine Palmense:ポレージネ・パルメンセ、Zibello:ズィベッロ、Soragna:ソラーニャ、Roccabianca:ロッカビアンカ、San Secondo:サン・セコンド、Sissa:シッサ、Colorno:コロルノ)をクラテッロ・ディ・ジベッロ D.O.Pとして認定し、22の生産者が作っています。
今回訪ねたのは、Colorno:コロルノにある生産者。
以前、一度訪ねて買い求めたことがあり、美味しいクラテッロを作る生産者とは認識していたものの、まさか自分で輸入を考えるとは思っていなかったのでそれより進んだ話はしてきませんでした。
ところが数年の後、知人がそこに勤めだし、私にコンタクトを取ってきたのです。
Ilaria:イラリアさんというその女性は以前パルマでオリーブオイルを扱う会社に在籍していてその際に知り合い、日本の見本市にも何度か来ていたこともあり何度も会話した仲でしたので
「コージ、私いまこの会社(クラテッロ・ディ・ズィベッロ)にいるのよ。
あなた、クラテッロに興味は無い?!」
みたいな気楽なメールが舞い込んできて
「そうなんだぁ!丁度気になっていたところだったのでラッキーだ、出来れば
近々伺いたいんだけど・・・」
「あぁそりゃ良いね!いつ来るの?」
「来週。」
「え?!そりゃまた近々ねぇ・・・えっとスケジュール見てみるわ。」
という風なやりとりを経て訪問とあいなったわけです。
そんなわけで件のレンタカー事件があった際にも
「ちょっと問題発生で行くのが遅れるけど必ずタクシーかなんかで駆けつける
から!」
と電話したら
「へぇーそりゃ災難ね!いいよ迎えに行くよ!」
みたいな感じで何かこう、張り詰めていた緊張感も解けてきた感じになってありがたいもんです。
パルマの駅前からタクシーに乗っても30分ほどで着く場所なのでわざわざ迎えに来てもらうのも何なのでサクッとタクシーで到着。
もう夕刻になっていて従業員の方々は帰り支度の最中でしたが、彼女は時間を空けて待っていてくれました。
ほんと、申し訳ないって感じでしたが、知人であるということはこんな時心強いものです。
地下にある熟成庫は当然ながらカビの匂いで一杯ですし、ダーッとぶら下がるラグビーボールのような形のクラテッロはどこかしらエイリアンの卵に似たような感じがあって異様といえば異様です。
とはいえ、これがあの複雑な味・香りを醸し出す大変高価なクラテッロかと思うと感慨深いものがあります。
ところでProsciutto di Parma:プロシュット・ディ・パルマ(パルマハム)の生産地とほど近いところで作られるため良く比較されますが、随分と異なる部分が多いのです。
まず、原材料はパルマハムが豚もも肉そのものであるのに対し、クラテッロ・ディ・ズィベッロは豚もも肉のうち、
「お尻側に近い太ももの後側と内側にある筋肉の束」
を使います。かなり限定的ですね。
次に肉に塩をしていく工程は同様ですが、その後がまた異なっていて、パルマハムは乾燥させていくのに対し、クラテッロ・ディ・ズィベッロは使用する部位が肉そのもので皮が無いため、豚(又は牛)の膀胱の皮で包み、亀甲に縛りって乾燥熟成させていくのです。
しかし同じパルマといっても、山間の風を利用して乾かしていく生ハムとは異なり川沿いの低地という湿度の高いところでは乾かすどころかむしろカビてしまうのです。
しかしこのカビだらけのような環境の中に、肉を発酵・熟成させ、得も言われぬ旨味を醸し出す微生物が存在するので、その力を最大限に引き出すような知恵と工夫がなされているのです。
説明に加えて試食もさせてもらいました。
クラテッロは個体による違い、小さいながらも部位による違いが相当にあり
「複雑な味や長い余韻」
は毎度かなりのヴァリエーションがあるのです。
毎日のように店頭でスライスしているとつくづくそう思います。
なので熟成が違うとかだけではない、そういう部分の緻密さが感じられるかが私にとっては興味深い点でした。
試食というのはそういう奥底にあるアベレージに思いを馳せる難しさがあるのですが、今回はその点でとても良好で、欲しいぁコレと思うに至りました。
肉類の輸入は輸出入者双方に認証手続きが煩雑であり、また検査に係る手続きやコストを受け入れないといけないので私にとってはかなりハードルが高いものだなぁと思っているのですが、一方で私が生産者と話をしながら直輸入している商品のような「近さ」をこの難しいクラテッロだからこそ感じたいなぁと。
この人達なら今後のコミュニケーションも図っていけるのではと確信したのです。短くも満足感の高い訪問となりました。