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イタリア買付道中記 2008

イタリア買付道中記 2008 その12

もう今日は日本に帰る飛行機に乗る、そういう日ですが、もうひと頑張りという事で、
早起きしてModena:モデナへ向かいました。 

MilanoからModenaまでは割合と列車の本数もあり(1本/1時間)2時間弱。
駅まで生産者のDavide:ダヴィデに迎えに来てもらいました。 

Acetaia Villa San Donnino:アチェタイア・ヴィッラ・サン・ドンニーノ

Villa:ヴィッラ、別荘とか屋敷という意味の言葉ですが、まさにここはそういう名前にふさわしい場所です。
こじんまりとはしていますが、家屋はliberty:リバティ様式が堪能できる場所として
それを見るだけでもツアーコースに入りそうな場所です。 

その屋敷内の裏側にacetaia:造酢所があり、2階に上がる階段を上るにつれ
鼻腔が甘い香りで満たされていく様は何度訪れてもうっとりする瞬間です。

今回訪れた晩秋はすでに葡萄の収穫(この生産者は葡萄から自前です)、
そして、モストコットつくり、樽への補充等々という作業に入ります。 

樽の中でバクテリアが活発に動く暑い時期はより蒸し暑い2階で熟成を重ね、
その活動がおさまる寒い時期は瓶詰め用に取り出し、新たなモストコットを補充していくという、
大きな二つの局面があるのが伝統的な作り方です。 

というわけで、モストコットつくりの場面を見せてもらいました。 

mosto cotto:モスト・コット、とは秋の初めに収穫した葡萄のジュースを
ふたの無い巨大な寸胴鍋(この生産者のものは350リットル位)を
ゆっくり回転させながら暖めて(80~85℃位)いきながら煮詰めたものです。
時折糖度計で確認しながら所定の糖度に達したころはほぼ1/3程度にまでに
凝縮されているのです。 

これをすぐに瓶詰めすれば、いわゆるvincotto:ヴィンコットができるわけ
ですね。
で、バルサミコ酢(本物の)となるものは、ここから樽でゆっくりと熟成し、
複雑かつ魅惑的な香りをまとうのです。 

さて、PIATTIで取り扱っているバルサミコ酢は2つのタイプがあります。
どちらも葡萄つくりから全て自分達の手によるもので、香・味・とろみと
いったものを化学的なものに一切頼らない自然なものですが、その違いは 

【12年熟成のTradizionale:トラディツィオナーレ】
モストコットが出来てから一旦ステンレスのコンテナに移し3ヶ月ほど寝かせて落ち着かせる。
それを、5種以上の樽(順に大きいものから小さいものへ)
1.Ciliegio:桜
2. Gelso:桑
3. Ginepro:ビャクシン
4. Rovere:オーク
5. Castagno:栗、等
に移し変えていきます。
樽を変えるのは各々の木の特性を生かして、微生物の働きのおかげで醗酵・熟成し香りに複雑味を加え、
色づく事を目的とするためです。 

【3年熟成のNERONE:ネローネ】
モストコットを作るための時間を12年熟成タイプ用よりも1.5倍ほど長くかける。
糖度やとろ味をここで得るのです。
それを、3種の樽(順に大きいものから小さいものへ)
1.Gelso:桑
2.Rovere:オーク
3.Ciliegio:桜
に移し変えていきます。
熟成期間は短くともきちんと天然の木による醗酵・熟成という工程をきちんと経るのです。

ちなみに、ネローネはcondimento:コンディメント(調味料)という少々風変わりなカテゴライズをしているのは、
現在市場に出回るTradizionale:トラディツィオナーレ“ではないバルサミコ酢”が種々の添加物によって
香りやらとろ味をつけているものが多くあるために、それとは区別したい、新たなカテゴリーへの挑戦といった
姿勢によるものだそうです。

「安いものを買って、鍋で煮詰めて作るトロッとした甘酸っぱい酢をバルサミコ酢と呼んでほしくない」

そういう思いを語る生産者Davideは、いかなジェントルマンといえど熱い語り口調となってしまうのでした。

さらに

「今の世の中、化学的にやりくりすればどうとでもなる時代だからこそ本物の良さを伝えたい、
でも我々のような小規模の作り手が大きな宣伝を出来るわけでもないから、
やっぱり地道に試食等の場を通じてrintracciabilita':リントラッチャビリタ
(トレーサビリティ)を口コミで伝えていくしかないんだ。」

と続けました。

今回、様々な生産者がまるで示し合わせたかのように口にした

・rintracciabilita':リントラッチャビリタ
・passa palora:パッサ・パローラ(口コミ)

の二つのキーワードは強く心に残り、それは同時に日本の全うで優れた農産物の生産者の方々が
口にすることとなんら変わりない、そんな風に感じました。

また、それぞれの生産者がそれぞれの方法で作り続け、行き続けていけるよう、
地道な努力を重ねているのを目の当たりにし、私もまた頑張って前を見て
着実に歩みを進めていきたいと思い直しました。

食べ物とはいえ、嗜好品の部類に入るものを多く扱っているわけですが、
作っている生産者は皆、

「俺のが一番だ、世界一さ!」

なんて事を誰も言わないのです。
おらが村の感が強いイタリアにあって違和感を覚えるほどです。
控えめというよりは冷静なところが何ともいえず頭が下がります。

ひとりのインポーターとして、彼らを訪ね、会話を重ねながらその良さをきちんと伝えていけるように
さらに頑張らないと!って思うのです。

時間は短かったのですが、Davide:ダヴィデとも会話を重ねた事でようやく
Lei:あなた の間柄からtu:君 の間柄に昇格?!しました。
行けば行くほどやっぱり深まる良さがあるものです。

お昼頃となり、彼のもとへParma:パルマからパルミジャーノの生産者Nicola:ニコラが迎えに来てくれました。
時間に余裕の無い旨を告げたところ、それならとわざわざ私をピックアップしに来てくれたのです。

Davide:ダヴィデと強く握手をしてわかれ、Modenaを後にしました。

続く。 

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