イタリア買付道中記 2004
イタリア買付道中記 2004 その15
トラパニの駅前から出る路線バスに乗って、一気に山の上まで駆け上がると、その街に辿り着きました。
(T-shirsと焦げた肌が擦れて一苦労でしたが)
Erice:エーリチェは中世の面影を色濃く残す街として有名なところ。
日没前後、眼下に見下ろすトラパニ市内や海岸沿いにある塩田は夕陽を浴びて紅く染まり、旅情をかきたてます。
←海と陸の境に塩田が見えます
玄関口、トラパニ門から始まる石畳や建築群は昔そのままに程度良く保存され、
三角形の形をした中世の城塞都市はそぞろ歩くに程好い大きさです。
シチリアの、いえ地中海の歴史を感じ取るに十分な城壁も現存し、様々な顔を見せる魅力的な街として
イタリア国内外から訪れる方も多いとか。
この街で会う約束をしていたのは、Franco Sacca':フランコ・サッカという男でした。
今年の3月に東京・有楽町で開催されたシチリア・トラパニ市主催のワークショップで、
何故か私が彼の通訳をする羽目になった事から知り合いになり、
「コウジ、Ericeでスローフード協会の集まりがあるから来ないか?!」
「行く、行きます、行くともさっ!!」
というようなやり取りを経て今回の再会となりました。
街の中心にあるリストランテで行われたその集まりには総勢150名を越える人・ひと・ヒト!!
フランコに案内されて座った席には何と、
スローフード協会会長のCarlo Petrini:カルロ・ペトリーニ氏
が同席していました。
凄く存在感の在る人、惹き付けられるような目をした人でした。
とりあえず自己紹介などをするにはしたのですが、さすがに緊張しまくりだったので、何を言ったかは覚えていません。
この大きな催しをひとりで取り仕切っていたフランコ。
かのペトリーニ氏とも親しそうに話しているのを見ていると、
「フ、フランコって偉かったのね」
と今更ながらに尊敬の眼差し。
さてさて、リストランテでの催しにも関わらず、焼けた、否、焦げた肌にすれる痛みに耐えられない
私の格好といえば、T-shirsに短パン!!
もう、格好悪いことこの上ない。
マナーに対して失礼していたわけですから言い訳できなかったのですが、周囲の目も心なしか冷ややか・・・
さて、リストランテでは全て
・典型的なシチリア素材を使った
・典型的なシチリア料理
を食そうというコンセプトのもと、さまざまな料理が出てきていました。
居心地の悪い私としては、出てくる料理に一生懸命になるしかなく、
隣に座るフランコにあれこれ聞きながらメモをとるなどしておりました。
でも、近くに座っている人たちの会話を耳にしていると、料理の事よりもそれぞれのお国自慢みたいな事を話したり、
料理の出るのが遅いだとか何とかアレコレ文句を言ったりしているようで、だんだんと黙っていられなくなり、
この会そのものの意義を問うべく、フランコに
「フランコ、スローフードって一体何?」
と恐れ多くも言い放ってしまったのです。
彼は落ち着いて、
「attenzione(注意を払って),pensiero(良く考えて),rispetto(敬意を払って)だよ、コウジ。
皆で話し合いながら食べる事から色んな事が生まれてくるだろう?僕はそう思うよ、コウジ。」
私は少し頭が固かったのかもしれないと思い直しました。
もちろん、食に対して真面目に取り組もうという姿勢は変えるつもりは無いのですが、それとて、
ひとり考えるばかりでは無く、多くの中で語り合っているうちに見えてくるものもあるだろうし、
何より大勢で食べる事の大切さはそれ自体大きな意義があると思うのです。
思えば、イタリア国内にもたくさんある支部はconvivium:コンヴィヴィウムという名称で呼ばれていますが、
その意味は、
・con:~共に
・vivere:生きる
という意味が合い重なったものです。
組織・団体としての協会ですから、もちろんかかげるスローガンがあるわけですが、その実、
何でも話して進めていこうとするイタリアらしい土壌を感じ得るところです。
今や世界で80,000人を越えようかという大きな団体、非営利団体でもあるこの団体には
大きなうねりがあるように私には映っています。
その辺もフランコは語っていました。
運営側ならではの苦労も多くあるのだとも感じた次第。
「それでも、話しつづけていかないといけないと思う。」
と言っていた彼。こういう男と巡りあえて良かったと心底思います。
忙しかった彼とはあまり多くを語れなかったのですが、彼はいろいろと生産者を紹介してくれました。
おかげで、次の日程がようやく決まったのです。
宴は思いのほか長く、語り疲れてもまだまだ、といった具合。
最後のCaffe'が出てきたのは宴が始まってから3時間後でした
「あぁ、それからホテルは○○に取っておいたから。」
ようやくチェックインしたのはもう真夜中。
焦げた肌には刺激が強すぎるくらい、熱いシャワーが勢い良く出る豪華なホテルでした。
続く。