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■イタリアの生ハムが食べられなくなる?!
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もうご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、今回はこの事について
書き連ねておこうと思います。
私共にとってとても大きな問題であり、いずれお知らせしなければ
いけない大切な事象ですので、長くなりますがご容赦下さい。
1.概要
イタリアで豚の感染症(アフリカ豚熱)が発生したことにより、
イタリアの豚肉製品全般の輸入が禁じられました。
そしてそれが解除されるまで恐らく数年はかかると思います。
豚肉製品全般ですから、生ハムは勿論、サラミ、サルシッチャ、調理用
パンチェッタやグアンチャーレ、加熱品のモルタデッラやコットに至る
まで、とにかく豚肉を使ったものは全てが対象です。
この措置は2022年1月8日から施行されたので、既に3ヶ月が経ち、日本
国内の飲食店や小売店等々が所有する在庫が尽き次第、順次イタリアの
豚肉製品が姿を消していく事になります。
2.“アフリカ豚熱”について
まずはこの原因となったアフリカ豚熱について。
アフリカ豚熱(African swine fever、ASF)は家畜伝染病で、ヒトに
感染する事は無いとされていますが、豚とイノシシにとっては致死性の
高い感染症として認知されています。
※ちなみに、2020年の家畜伝染病法改正により表記が改められました。
以前より日本にも存在していた「豚コレラ」は、ヒトのコレラとの混同
を避けるために「豚熱」(Classical swine fever、CSF)と表記され
るようになりました。
今回の「アフリカ豚熱」はこの「豚熱」ともまた異なるウィルスにより
引き起こされるものです。
農林水産省が発表している資料によればアフリカ豚熱は世界中に広がり
大きな問題として各国が対応に苦慮しているところですが現在のところ
日本での発生は確認されていません。
また豚熱(CSF)に比べてアフリカ豚熱(ASF)は、と畜し、塩漬や乾燥
させた肉にも長期間生存し続け、致死率も高い上に、有効なワクチンや
治療法が無いという厄介なウイルスなのです。
3.イタリア本土での発生
実は以前からサルデーニャ島でも発生していたのですが、島という隔離
環境であったために広がりを見せずに収まっていました。
ところが、1月5日にイタリア本土のピエモンテ州~リグーリア州で野生の
イノシシの死骸からこのウィルスが検出されました。
イタリア保健省に属する団体(ASSICA)の資料に発生した村名が発表され
3月29日現在で、その確認数は79頭の野生イノシシからとされています。
このウィルスの運び屋とされるダニや、感染した動物と接触することで
感染が拡大する他、本病のウイルスに汚染された十分に加熱されていない
肉及び肉製品を豚が食べることによっても感染します。
現地では野生イノシシのみに感染が確認されていて、まだ豚に発生して
いるわけではありませんが、かなり神経を尖らせる状態です。
4.輸入停止措置
イタリアからの迅速な報告により、日本では1月8日から豚肉等の輸入停止
措置を講じました。その適用範囲は“イタリア全土”です。
5.イタリアの対応
この問題に対し、イタリアでは“ゾーニング”という概念で対応しています。
範囲を特定して処理していく、ということです。
資料によると、発生した地域
Area infetta:感染エリア、
Buffer 10 km:緩衝エリア
を囲って処理しようとしています。
この範囲を注視しながら、その中で殺処分した後、感染が止まったかを
確認するまで長い時間と大きな財政支出を伴う、長い戦いです。
一方で、その地域外(パルマやサンダニエーレ等々の産地が該当します)
は今まで通りの流通を許可し、これをEU圏内においても適用するという
書面での発表があります。
ならば、(生ハムの生産地は)問題なしと読み取れるのに何故??
とこの書類を読んだ時に思ったものです。
6.輸入禁止措置をとっている国々
では一体どの国が輸入停止措置を行っているか、パルマハム協会に確認
しました。
拠れば、現在日本以外で輸入停止措置を行っている国は以下の通り。
中国、台湾、ヴェトナム、ペルー、エクアドル、メキシコ、セルビア
なかなかに興味深い結果です。
さて、パルマハム協会に問い合わせた際に入手した資料として興味深い
ものがあります。
拠れば1997年のパルマハムの輸入開始の条件として日本と交わした文書に
食肉処理される豚が存在する施設から半径10Km以内に、口蹄疫、ASF、
CSF、豚水腫のいずれかが検出されたことが無いこと
という内容の記述があります。
つまり、今回も発生地域からはゆうに10Km以上離れているわけだから
問題ないじゃないか?!と読めてしまうのですが、今回の決定機関はそれ
も重々承知の上での「輸入停止」の判断だそうです。
深刻ですね。
7.ハンガリーの事例
ではこのイタリアが取っている“ゾーニング”は認められないのか?
いえ、成功した国があるのです。それがハンガリーです。
とはいえ、それでも両国間の獣医当局間の協議・確認を経た上で、
2018年4月に感染が発生してから2021年1月に解除されるまでおよそ3年を
要しています。
こうした成功事例があるにも関わらず、或いはそれがあるからこそ今回
日本はイタリアの対応を不十分と判断する点があるのかもしれません。
かくしてイタリアはアフリカ豚熱というウィルスに侵された“汚染国”
としての烙印を押されたわけです。
こうしていったん“汚染国”とされてしまうと“清浄国”に戻るのは
大変な事なのです。
8.顧客としての日本
ここで顧客としての日本の立場という点から見てみます。
パルマハム協会が2020年のスライスパックの出荷額を発表しています。
パルマハム全体の生産量から見るとスライスパックは22.8%ですが、
原木での取り扱い量が少ない日本では、スライスパックでの消費動向を
知るだけでも十分な資料になり得ると思います。
その輸出上位は以下の通りです。
1位 英国 :1,455,470kg
2位 米国 :1,301,157kg
3位 ドイツ :1,239,899kg
4位 フランス: 754,130kg
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・ 日本 : 124,425kg
欧米に比べるとまだまだ輸入量は少ないとは言え、1997年にパルマハムが
先頭切って輸入解禁となって以来、今では多種多様な国や産地の生ハムが
後を追うよう輸入解禁となり、その他の豚肉加工品が多彩なラインナップ
をもって選択できるようになった事で、確実にイタリア、ないしは欧州の
食生活を遠い日本で享受できる幸せを感じておられる方も多いでしょう。
そして事実、日本での輸入量は年々増えていたところでした。
現時点での数字の少なさをそのまま端的に捉えるか、あるいは今後も増え
ていくであろう発展途上としての日本のポテンシャルを大事と見るか、
はたまたイタリアのハム類の消費において今後も爆発的に増えるであろう
中国と併せ、重点的な措置を講じるようイタリアが動いてくれるか期待
したいところです。
9.現状と今後
上記に書き連ねた内容、背景からすればイタリア政府が日本政府に対して
どれほどの熱意をもってこの問題を解決するように働きかけてくれるかは
未知数ですが、パルマハム協会も今後に対する具体的協議をしている最中
との事。
ゾーニングが認められば嬉しいですが、そうでなければ一旦“汚染国”と
烙印を押されたからには国全体として“清浄国”とみなしてもらうには
大きな財政支出を伴う事は想像に易いところです。
死骸や塩蔵品からも300日程度は残存するという、このウィルスが不検出
となり、それから健全な豚をと畜して400日以上の熟成期間を経た生ハム
が輸入されるまでの時間を頭に浮かべるだけで目眩がする思いです。
ですので、期待を持って輸入再開を待ちたいところですが、何もせず
待っていられるほど悠長な話では無いという事です。
既に輸入禁止となって3ヶ月が過ぎました。
幸いな事にこの措置がなされて直ぐ様に私の耳にも情報が入り、早々に
情報収集と、その後の在庫確保に勤しむ事が出来ましたが、その在庫とて
あと数ヶ月で底をつくことでしょう。
その前にフランスやスペイン等の、イタリア以外の国の豚肉製品を入手し
試しながら、その扱いを覚え、徐々にそれらにスライドしていけるよう
目下励んでいるところです。
コロナに始まり、このアフリカ豚熱問題、そしてウクライナ情勢と
穏やかでない事が続きますが、強いられて形を変えねばその先が無い
という現実を受け止め、持てるものを使い果たしながら次の未来へと
繋げていけるよう尽力いたしますので、行末を見守っていただければ
幸いです。
参考文献
Ministero della Salute (イタリア保健省)Peste suina africana
Istituto Zooprofilattico Sperimentale del Piemonte Liguria
- e Valle d'Aosta
CONTROLLI PER LA PESTE SUINA AFRICANA IN PIEMONTE E LIGURIA
2021/01/27
農林水産省
アフリカ豚熱(ASF)について
欧州・ロシア等におけるアフリカ豚熱の発生状況(2007年以降)
農林水産省 消費・安全局 動物衛生課
アフリカ豚熱のゾーニングを適用した ハンガリーからの生鮮豚肉の
輸入再開に関するリスク評価報告書概要 2020年8月31日
Associazione Industriali delle Carni e dei Salumi
PSA in Italia circolare 22/12/RM
PSA in Italia circolare 22/33/RM
パルマハム協会 プレスリリース 2021/03/05
農研機構 ASF(アフリカ豚熱) 2020年11月12日
津田智幸 豚熱とアフリカ豚熱-豚とイノシシの最強の家畜伝染病
モダンメディア 67巻5合2021