ズィベッロ
Zibello:ズィベッロ という村はParma:パルマから北上する事約20Kmで、先に訪ねたBusseto:ブッセートとは至近です。
でもここは Fiume del Po:ポー川のほとりです。
この暑い夏場でもさらに堪える湿度の高さが特徴的。
蚊も多く、不快指数はなかなか大したものです。
が、この湿気ゆえに世界にその名を轟かせる Culatello di Zibello: クラテッロ・ディ・ズィベッロが
出来るところとして有名なのです。
ま、思うにこの村を含むParma:パルマ近郊はProsciutto di Parma:パルマ産生ハムの生産地ですが、
何といっても生ハムはPro-sciuttoプロ・シュット(乾いた、という意味のasciuttoより派生)って言う程ですから
乾かないといけません。
なのにここではそれは厳しいです、上手く乾きません。
この地域ならではの自然環境だからこそ、なのか更なる美味の追求故 なのかはわかりませんが、
独特の製品だと思います。
culatello:クラテッロという名前にはその生い立ちも含まれていて 、
culo:クーロという言葉、即ち「お尻」という意味から、豚もも肉の尻部分のみを取り出し、
塩やワインなどをした後、膀胱の皮で包んで縛って干したもの、となります。
当然、ポー川の湿度を含んだ風によりカビが生えるのですが、それが上手く働いてこそのあの味になるそうです。
なので、クラテッロは部位や製法が同じであればこの村でなくとも出来るのですが、
ジベッロ村ならではの微妙な塩梅というのが存在するのでしょう。
というわけで、Culatello di Zibello:クラテッロ・ディ・ズィベッロは立派なD.O.P製品なのです。
さて、文字で書くとクラテッロ、なのですが日本語の感じでそのまま発音してみてもイマイチ伝わりません。
なので、発音するときは“クゥーラテッロ”ぐらいが良い感じです。
ともあれ、クラテッロの作り手として有名なのはMassimo SPIAGROLI:マッシモ・スピガローリさんで、
数年前に訪ねた事もあるし、彼の作品とも呼べるクラテッロを何本かスライスした事もありましたので、
今回はまた異なる造り手によるものを試してみたいなぁと思っていました。
ふらりと訪ねたのが、La Boutique delle carni e salumi: ラ・ボッテーガ・デッレ・カルニ・エ・サルーミ という店。
小さな村の数少ない広場に面した歴史的な建物、Palazzo Pallavicino: パラッツォ・パッラヴィチーノに溶け込むかの如く、
見るからに良質な専門店のオーラがバンバン出てくる面構えです。
イタリアならではの、控え目に差し込む自然光、ひんやりと乾いた静けさをひしと感じるような店内の雰囲気で、
目が慣れてくるとずらりと並んだクラテッロの数に圧倒されます。
店主のGiuglio:ジュリオ氏にあれこれ尋ねるうち、
「ちょっと小さいけどCantina:カンティーナを見る??」
っとフレンドリー。
同じ建物の下に小さくこしらえたかのような熟成庫ですが、庫内の少し湿った空気と穏やかに満ち満ちたクラテッロの香りは
何とも素敵でちょっとたまりません。
売り手であり、造り手である事は大きな説得力を持って、私の心をぐいぐいと引き込んでくれました。
そして「何も熟成が進んだものが良いとは限らないんだ・・・」というあたりから話にさらに熱が入ってきました。
自分でスライスして売っているからこそ言える言葉だと思います。
私自身、熟成期間そのものの数値はひとつの目安にはなりますが、それが決定的な意味合いを持つとは
必ずしも思っていなかったので激しく同意し「・・・ですよねぇ!!」っとは言わないまでも、
そんな感じでさらに身を乗り出したのでした。
今のところ、PIATTIではハム類の直輸入には乗り出していませんが、将来直輸入する事が出来るのであれば、
こんな人から買いたいものだと強く思いました。
実際、クラテッロは大変高価(パルマの生ハムの4倍程度)ですが、同時に個体差も結構ある事を知っているので、
買うにあたってはそうしたセレクトがなされているものがとても重要だと思うからです。
というわけで、一本買ってみよう、そして彼の思う程度の良いものを買う事にしよう、という事でお願いしたのです。
クラテッロは実際にスライスするまで少し手間がかかります。
縛った紐をほどき、カビがついた膀胱の皮をはぎ、白ワインをふくませた布で覆って綺麗に洗い、
一昼夜ほどの時間を経て少し表面がしっとりしたのを確認してようやく準備OKとなるので時間もそれなり。
なので現地でもすぐにスライスできるように、その工程を事前に終えた後に真空パックにしておいたものが並んでいます。
でも美味しいのはやっぱり直前にその工程を経たものなので、原木そのものを一本買うことにしました。
その旨を告げると彼は、l'osso di cavallo:ロッソ・ディ・カヴァッロという馬の骨を細く尖らせて出来た
まるでかんざしのようなものを肉に突き刺しては香りを私にかがせてくれました。
この骨はその材質と細さゆえに、着いた香りが一瞬で消えていきます。
刺した後は指で押さえれば元に戻るので、この性質を利用してハムの香りを確認するのに使われています。
「どうだろう?これなら良いと思うのだが・・・」という具合で選んでくれました。
なるほど、一本一本確かに香りが異なります。
こういう買い物はたまらなく楽しいものです。
後日、その原木をスライスしてみたら、それはそれは素晴らしい出来で大変満足のいく逸品でした。
クラテッロは確かに高価です。
パルマ産生ハムの4倍!っていうのはそうおいそれと口にできないかのような敷居の高さです。
が、薄いスライスを1枚口に含んだだけで感じられる幸せな香りは十分な満足感があるので1/3程度の量で済むと思います。
PIATTIでも取り扱ってみたいと思うようになりました。
良いものはイイ、歩けば探せばまだまだ出てくるものだ、そんな満足感 いっぱいのZibello滞在でした。
続く。