Leini:レイニ(“ニ”にアクセント)という町に着いたのがほぼ夕刻。
緊張しながら扉を開けて名前を告げました。
事前に訪問する時間を告げていたので無事お目通りがかないました。
現当主のMario:マリオはいかにも菓子職人然とした風体の大柄な老紳士といったところ。
改めて自己紹介した後、このチョコレートに対する思い入れをとつとつと述べました。
そして、品質を守るために、オーダーするタイミングについては各素材が揃う季節を尊重するとか
販売する季節を無理しないようオーダー数量を考慮する、そういう事を述べました。
これまでの各々の生産者とのやりとりの中で実感として得た事で、
やっぱり自然のものはその旬を逃したり無理したりすると予期せぬ問題が出たり、
何といっても味が違ってくるなぁと思うのです。
こうした事を述べた途端、マリオの顔が明るくなり、途端にいろいろと話をし始めてくれました。
自分達の作り出す製品をいかに大切に思ってくれるかという事を重んじるのは、
作り手として古今東西、変わることは無いと思えます。
110年の歴史を持つA.GIRODANO:ア・ジョルダーノの当主の気質はまさに菓子職人としての
連綿と受け継がれてきたものなのだろうと感じました。
で、一通りの話が終わった後
「じゃ、食べてくか?ほれ、これがああで、あれがこうで・・・」
と今度は猛烈な試食ラッシュ。
こうした所もいかにも、なのでした。
そしてやはりfatti a mano:ファッティ・ア・マーノ(手ごね)Verを口に放り込むと
“何ともいえないヌォゥゥっとした濃厚で官能的”な味わいが1年ぶりの記憶を呼び覚まし、まさに
「ほらな、これがジャンドゥイオッティさ。」
と言わんばかりの説得力を持って語りかけてきました。
しっかりと甘さがあり、口どけも滑らかですが口の上裏にこべりつくかのような残像感を残すあたりは
まるで現代の風潮の逆を行くような感じですが、
“甘いものはしっかり甘くていい”
と思う私にとっては、それはそれは満足感のあるチョコレートなのです。
これを筆頭に、ヘーゼルナッツの小さな粒粒が入ったタイプや四角くて3層にサンドウィッチされた
クレミーノ、そしてチョコレートクリーム等が記憶に残りました。
で、彼曰く
「この先の価格やら書類やらのやり取りは娘とやってくれないか?
何しろ私は(メールとか)そういうのが苦手なもんでね。」
という事で、娘のLaura:ラウラと交代となり、彼は工房へ戻って行きました。
ハキハキとした彼女は明晰で、あれこれと話す内容をフムフムと納得し書き留めているようでした。
かつて私が右も左もわからぬままに始めた輸入という業務において様々に先輩に教えてもらった事を
思い出しました。
なるべく丁寧に。
今度は私の番です。
しばらくそうしたやり取りをした後、
「工房見ていく?」
と彼女。
「そりゃあもちろん!」
と私。
通常タイプと手作りタイプの味わいの違いは何なのだろうかというのが最大の興味で、
これに対しあまりにもあっさりと
「いわゆるイングレ(原材料)はどちらも同じですが、
通常タイプは機械で練り、手作りタイプは手で時間をかけて練るだけです」
と見せてくれました。
要はその具合がまさに企業秘密の部分となるのでしょう。
確かにヘーゼルナッツの香りをしっかりと感じる美味しさ具合はどちらも変わりませんので、
ヌォゥゥっとしたねっとり感をとるか、
サクッとした潔さをとるか
は好みの問題という事でしょう。
窓越しに指差しながら
「あそこに山々が見えるでしょう。その辺りでとれるヘーゼルナッツが良いのです。
今朝取れたものを炒ったのがこれ。食べてみる?」
とくれたヘーゼルナッツの薫り高く美味しい事!
シンプルなものをシンプルに扱いシンプルに作り出す、そういう事の難しさと尊さを身体に
刻み込んでいるからこそ口に出せる言葉がある、そういう事を感じました。
Natale:ナターレを前にした繁忙期に入るため、実際のオーダーは年明けになる事を確認し
工房を後にしました。
雨が降り、いよいよ寒さを感じる冬のトリノ。
それでも3年越しの恋が実りつつある今年の景色は少し違って見えました。
何だかんだでミラノのホテルに戻ったのは10時を過ぎた頃でした。
明日のその頃には日本へ戻る飛行機の中です。
でも、もう一頑張りしてModenaとParmaの生産者に会おうと思っています。
というわけで最終日も4時起きとなりました。
続く。