イタリア買付道中記 2008 その4

Sciacca:シャッカは言わずと知れたアンチョビのメッカです。

イタリアでアンチョビといえば、

・リグーリア州のMonte Rosso:モンテロッソ か
・シチリア州のSciacca:シャッカ

のどちらかではないか、なんて言われ方をしています。
良い素材が取れる場所で、昔から作り続けられている伝統がある場所そんなところです。

アンチョビってその作り方そのものに大きな違いがあるわけではないですが、
だからこそ、素材の状態や漬けるオイルなど、ひとつひとつの工程を吟味していくと、
その差が表れてくるものです。

これまで私が出会った様々な生産者のサンプルを試食していくうちに
だんだんとそうした事が実感できるようになりました。
何度か食べていくうちに、

「あぁ、これ美味しいなぁ・・・」

って改めて瓶のラベルを見直すような、そんな感じです。
そう思ったのはもうかれこれ2年以上前のことです。
でもなかなか調整が取れず、訪ねる事ができないままに時間ばかりがすぎていっていたのでした。

アンチョビはPIATTIの商品ラインナップとしてどうしても欲しいものでしたが、
色々と考える事が多かったですし、やるからにはきちんと会ってからという心情がありますから
できるだけ慎重にとも思っていました。

で、今回ようやく機会に恵まれ、訪ねる事になったわけです。
EXVオリーブオイル、BICENO:ビチェーノの生産者のところへ迎えに来てくれたのは
Paolo CAVATAIO:パオロ・カヴァタイオという生産者です。

たまたま近いから迎えに来てくれただけではありません。
彼はまた、EXVオリーブオイル、BICENOの顧客でもあるからです。

つまり、かの超高級EXVオリーブオイルを使っている、という事なのです。
そこが味の大きなポイントであり、また同時に悩ましいポイントでもあるという事なのです。

以下、独り言のようなものですが・・・

・“そのまま食べるというよりは、溶いて使う事の方が多いアンチョビにそこまでのクオリティを求めてよいのだろうか?”

・“それよりもよりプリミティブな塩漬けを自分で塩抜きして使った方が良いのではないか?”

・“確かに塩漬けタイプを自分でやった方が美味しいけど毎回そんな手間をかけるのが一般的なのだろうか?”

・“気になるのはやっぱりコストか。。。。”

・“だったらすでに日本でいろんなタイプが沢山出回ってるじゃないか”

・“いや、切れっ端を集めてペーストにしたタイプがあればコストの面はクリアするかもしれない”

・“良いアンチョビを輸入するには温度管理が必要だから少量ならば空輸するしかなく、結局は同じ事か?!”

・“コストばかり考えていては本末転倒ではないか・・・”

などという事を会う前に考えていました。
グルグルと頭の中だけで。

でも、会おう、と決めたのは最終的には舌に残った記憶というか勘というか
何かそんなものの方が迷いよりも一寸力強かったからかもしれません。

港のすぐ傍にあった彼の作業場を訪ねると、白いタイル張りの清潔感のあるしんと静まったその中で、
黙々と作業を続ける作業員の姿が目に入りました。

春の頃、状態良く捕れたカタクチイワシを塩漬けし、その後一尾ずつ骨等をきれいに取り去った後、
瓶につめ、オイルを満たすという最終工程が丁度今頃(11月)に終わりを迎えるといった状況でした。

それを見ていると、さして切れっ端が出る風でもなく、これではペーストを作る必要もないほどでした。
それほど丁寧な仕事です。

上手に発酵したものは洋の東西を問わず臭みがありません。
程よく薄いピンク色をした身頃は固すぎず柔らかすぎず。
この頃合を見極める所に違いがあり、その身はオイルに使った後でもさらに
少しずつ変化し続けるとてもデリケートなものなのです。

既に塩で漬けているものである事、熱や酸化に対してデリケートな面を持つ事から、
瓶詰めのオイル漬け製品ではありますが、湯煎をしません。
従って、オイルはその身を酸化から守るための唯一の方法ですから、
他の製品以上に大切な役割を果たす事になるわけです。
その市場価格や使われ方から想像すると少し意外な気もしますが、
考えてみれば至極当然といえば当然なのかもしれません。
オイルの質が悪ければどんどんとその身は酸化し、緑がかった色合いに変わってくるのです。

それを大切に思い、つきつめた結果、使うオイルはひまわり油でもなければ、
ただのオリーブオイルでもない、超低酸度のEXVオリーブオイル、BICENOだったというわけです。 


  

「いくらアンチョビそのものが良くってもそれだけじゃあ駄目なんだ!」

彼は熱弁してくれたのでした。
なるほどね。
そんな風に相槌を打ちました。

一体、今までぐずぐず悩んでいた事は何だったのだろうかと。
全うな物をよい良い状態で、という思いから出来上がったという事にもっと敬意を払うべきだったと思い直したのです。
大切な事を見失いそうだった事を恥ずかしく思いました。

あとは・・・
アンチョビの瓶一般に言える、オイル染みの事です。
きっちり締めて、湯煎するタイプに比べれば、その工程上どうしてもその弱点が浮かび上がるようですが、
この点についてもう少し蓋の中身がマシなタイプを日本で買って持って来ていたので、
それを手渡し、その旨説明して検討するよう嘆願したところです。

ま、だからといって直ぐに実現するかは・・・イタリアですから。。。
でもこうした直接の会話なくして進まないものですから、大きな一歩かと思っています。
近く彼からの返事があり次第、さらにまた一歩進む事が出来ると思います。
なるべく小さめのサイズを少しずつ、こうしたいつもの私のお願いを彼は快く聞き入れてくれました。

アンチョビの取扱、これは今回の旅の大きな一つの目的でもありました。
早々に大きな山場を迎えたのですが、まずは無事に最初の一歩。
何とか踏み出せたようです。
さて、クルマの中で私を待ってくれていたトマトのフィリッポ。

「じゃ、次行きますか?!」と彼。
「Si,amninni!(アムニンニ!:レッツゴーのシチリア弁)」と私。

向かった先はTrapani:トラーパニです。

続く。