前回は、パルミジャーノ・レッジャーノの生産工場内のお話でしたが、
今週はその飼料をどうやって作っているかについてです。
熱を出してダウンしてしまった父の代わりに息子のNicola Bertinelli:ニコラ・ベルティネッリが
近くにある牛舎を案内してくれました。
「良質のパルミジャーノを作るためだけの生乳を絞る事ができる環境」
をいつも考えている、という彼。
見渡す畑は山の上Medesano:メデザーノから麓の村境まで、有する広さは150ha。
良く見ると作っている飼料も異なっていました。
「牛乳を搾る前段階をいかに考えるかで出来具合が違うんだ!」
彼のレクチャーが始まりました。
・飼料に存在する“良い”バクテリアを最大限に、“悪い”バクテリアを最小限にするために、
・飼料の種類を選定し、畑に植える植物の割合や位置を考えて配置し耕作
・またそれが可能な気候条件が整う部分を厳選
していくと、そういう場所はほんの少ししか存在しないとの事。
また耕作人についても
・一日にとれる量を少なくし、直に目で見て良い条件の牧草を刈り取る
・土に近い部分は切り残し、悪いバクテリアがつかないように留意
しているそうです。
「これは即ち、1Kgのチーズに濃縮される18Kgの“良い”牛乳を取るためのルールなんだ!」
思い切り顔を近づけて息荒げに話す彼なのでした。
いわゆる食品のトレーサビリティなどという言葉以前に当然のこととして取り組んでいる、
何とも農業国としてのイタリアの側面を見たような気がしました。
思うに、イタリアは立派な農業国だなぁ・・・とつくづく。
続いて牛舎へ。
自然の風が良く通り、牛舎特有の匂いはほとんどありませんでした。
穏やかでゆったり流れる時間の中、ゆるりと暮らす牛達といった風情なのでした。
彼の説明より、
・牛は子供を産む前後60日以外は搾乳できる
・特に産んで50日後から100日まで位が最も良い乳を出すので、牛舎中央の天井が高く
風通しの良い所で青々とした餌を食べる
・産む前の牛はもりもりと餌を食べられるように量も多くする
・また産後の牛は、休息をとれる場所で日光にあたりビタミンDを吸収し、
柔らかく寝やすい(休みやすい)場所に移動する
餌とスペースをそれぞれに最善にとろうという考え方です。
牛達のストレスもかなり少ないように思われます。
餌の青々とした瑞々しさや柔らかさに驚きました。
もちろん全て植物性のみというのはパルミジャーノ用の飼料としての約束事。
餌を見ようとしゃがんでいると飼われていた犬がゴロゴロしてくるので
ついつい遊んでしまう私は写真を撮るのを忘れてしまいました。
穏やかなのでした。
自然環境を大切に科学していく、といったアプローチは、昨年の買い付けで見学した
プロシュット・ディ・パルマ(パルマ産生ハム)とも通ずるやり方で、これらを実現できる
場所が限られるのは至極当然であり、これがあっての「DOP(原産地保護名称)」
なんだなぁと実感さぜるを得ないのでした。
私はパルミジャーノを伝統的手法でカットする、という事を少しずつ始めたのですが、
この際に感じる自然との対峙、みたいなものは全てこれらモノ作りの姿勢から滲み出、
感じ得るものなのかもしれない、と強く思った貴重な経験でした。
ちょっと興奮気味に終了した見学を終え、食事に出かけました。
トラットリアで食べるひとり気ままな食事。
ゆっくりと食べる事の大切さを実感できるような、そんな一時。
なかなかにオツなものです。
食事を終え、部屋に戻り、ここはひとつ、と昼寝。
雨音で目を覚まし、シャワーを浴びて髭をそりました。
明日はミラノです。
続く。